牛と地球

「牛を守ると世界が守れる」を実証する

ガナガプラ・ヨーガ研修報告① 未来の姿としての森づくり

 

未来の姿としての森づくり

ガナガプラで行われたスワミジのヨーガ研修は、その一環に森づくりや家族農業についての未来を豊かに含んでいました。今回はガナガプラ・ヨーガ研修の中から特に未来の世界を考える上で参考になる内容を報告していこうと思います

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ガナガプラのティールタ(沐浴ができる聖所)

ガナガプラのヨーガ・アーシュラム

ガナガプラは人口1万人に満たない村です。ヨーガの主ダッタートレーヤーの化身の一人である聖者ナラシンハ・サラスワティとの所縁が深く、ヨーガの学徒にとっては聖地となっています。猪や山羊、牛、犬がそのあたりを闊歩していて、のどかな雰囲気です。

その村に今回のヨーガ研修が行われたアーシュラムがあるのですが、この期間のアーシュラムの一角には泥団子と様々な木の種が並べられたブースがありました。

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粘土団子づくりのブース

宮脇方式と福岡方式

ブースでは森づくりのプロジェクトが行われていました。聞いてみると、そこで使われているのは、世界中で四千万本の植樹を行い森林作りの伝説となっているMiyawaki method(宮脇方式)ということでした。インドのヨーガ文化に深く没頭する時間になると思っていた所に、日本人の名が出てきて不思議な気持ちになりました。

宮脇方式は、その地に由来する多様な種の木を密集して植えることにより、自然なバランスによって人の手がかからなくとも森を作ることができる混植・密集型植樹です。環境の厳しい場所にも森を創造することができ、マレーシアでの熱帯雨林再生、中国の万里の長城での植樹などで使われています。

小さな場所にも森を作ることができ、宮脇方式の「ミニ森林」としてオランダ、イギリス、フランスなど12カ国で行われているそうです。

ブースには使われることになるインド由来のタネが数多く紹介されていました。

みんなで粘土の中にタネを入れ、それを丸めて粘土団子を作っていました。これは『わら一本の革命』で世界に一石を投じた自然農法学者、福岡正伸さんの「粘土団子」を彷彿とさせるものでした。みんなで団子をこねる工程は、様々な人が楽しく簡単に森づくりに参加できる要素になっていました。地元テレビ局が取材に来ていて、日本人由来の方式だということで自分たちの姿がカメラに撮られるという予想外の展開もおまけにありました。

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インド種のタネの展示

植樹

アーシュラムの近くに半エーカー(約2平方キロメートル)の土地が用意されていて、そこでみんなで植樹をしました。多様な種類の木の中で代表としてオウダンバラ樹(フサナリイチジク)が選ばれ、植樹の儀式が行われました。この木の名は、日本に優曇華うどんげ)として伝わり、仏教の経典では三千年に一度花を咲かせる木だとされています。

物事の進行における障害を取り除く象の頭のガナパティ神や太陽神への祈りが捧げられ、植樹が行われました。

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バーラ・スワミジによる植樹の前の儀式

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植樹を待つ苗たち

ダッタートレーヤーと願望成就の世界樹

都市部に生きる現代人の多くは、森林減少が環境問題を引き起こし、自分たちが様々な形で木を消費していることを知っていても、自分に何かができるとは思っていません。そうした中で私はいつか数本の木を植えたいと願っていたのですが、その願いが思ってもいない機会に満たされる形になりました。インド神話では、ヨーガの主ダッタートレーヤーはオウダンバラ樹の下にいると言われています。そしてオウダンバラ樹は願望成就の世界樹だとされています。私の心の奥深くにあった願いを木が叶えてくれたのかもしれません。

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ダッタートレーヤー

森を作る必要性

木が二酸化炭素を吸収し幹などに固定することから、森林は地球温暖化の解決に大きな役割を持っています。きれいな空気と水を生み出し、多様な生態系を守っています。災害の際には防波堤となり、そのしっかりとした根が大地を強固にします。

未来の世界のために必須と言える森林ですが、森林伐採が異様なスピードで進んでいる背景には、私たちのライフスタイルがあります。森林伐採の原因の約90%が畜産と農地にのための土地利用だと言われています。加速する肉食文化の圧力が工業型畜産を広げ、その飼料穀物のために莫大な農地が必要とされます。私たちが知らずのうちにその一角に組み入れられている新たなフードシステムの拡大のスピードはとてもバランスを欠いたもので、持続可能性に致命的な影響を与えてしまっています。

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森林破壊の要因。人口増加による食料需給を満たすための農業が森林破壊の90%を占める。 出典:FAO. First results of FRA 2020 Remote sensing survey[1]

まずは自分のライフスタイルを正しいものにし、そして世界全体が正しい姿になり、持続可能な形で繁栄できるように祈りたいと思います。改めてオウダンバラ樹に願いを込めて。

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実をつけているアシュラムのオウダンバラ樹

牛乳の歴史

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牛と人間の歴史

動物の乳の利用は、約1万年前の西アジアで始まり、まず羊や山羊の乳の利用から始まったということになっています。それから少し遅れ、人類は牛を家畜として飼うようになりました。約6500年前には牛に犂すきを引かせる農耕方法が誕生しました。そして牛の家畜化からほどなくして、牛の乳を利用する歴史が始まりました。

 

アルファベットの「A」を逆さにすると牛の顔のように見えますが、まさに「A」は牛から来ています。
アルファベッドの原型であるフェニキア文字において、「A」は「アレフʼāleph」であり、「雄牛」という意味です。

 

Aleph名前:アレフʼāleph、意味:雄牛

 

ちなみにアルファベットの「アルファ」はこの「アレフ」が由来です。「ベット」は「ベータ」が由来です。つまりアルファベットは、「A、B」という意味なのですね。

「B」はフェニキア文字においては「ベトbēth」で「家」という意味です。

 

Beth名前:ベトbēth、意味:家

 

「A、B」は「牛の家」という意味になります。人類と牛が非常に深い、起源的な関係を持っているように感じられます。

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仏陀と牛乳

紀元前5世紀に仏教を開いた釈迦は、悟りを得るため厳しい苦行をしたといいます。苦行で衰弱した釈迦に、村の少女が乳粥を差し出ました。釈迦はその美味に驚き元気を取り戻します。そして菩提樹の下で瞑想し、悟りを開くことができました。

釈迦は牛乳や乳製品を、食料となり、気力を与え、皮膚に光沢を与え、また、楽しみを与えるもの…として讃えています。

日本で最古の医術書『医心方』には、「牛乳は全身の衰弱を補い、通じを良くし、皮膚を滑らかに美しくする」と古代乳製品の効用と解説が記されています。

牛乳は人類の友とも言えそうなありがたい存在ですね。感謝の念を持ち、牛を大切にしなければならないと思えます。

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天皇と牛乳

日本における牛乳の歴史に深く関わっているのは天皇と将軍です。645年、飛鳥時代大化の改新の頃に、百済からやってきて日本に帰化した智聡の子の善那が孝徳天皇に牛乳を献上したのが始まりであるそうです。

その後、元正天皇の時代、牛乳を煮詰めてつくる「酥(そ)」の献上を七道諸国に命じました。そして醍醐天皇の頃に、「酥(そ)」の献上の儀礼様式が定められました。この醍醐(だいご)という言葉も牛乳と深い関係があります。

仏教の教典には「牛より乳を出し、乳より酪(らく:ヨーグルト)を出し、酪より生酥(なまそ:酥は濃縮乳のこと)を出し、生酥より熟酥(じゅくそ)を出し、熟酥より醍醐(だいご、チーズかバターオイルのようなもの)を出す」とあり、醍醐が最高の美味とも書かれています。「醍醐(だいご)、超うめー!」という感じでしょうか。「醍醐味(だいごみ)」という言葉の由来になっているようです。

貴族社会に広がった牛乳の文化ですが、その後、朝廷の勢力が弱まるにつれて、牛乳文化も弱まっていきます。

将軍と牛乳

江戸時代になり、八代将軍吉宗は、オランダ人カピタンに馬の医療用として牛乳の必要性を教えられ、インドから白牛3頭を輸入して千葉県安房郡で飼育を始めました。これが近代酪農の始まりといわれています。

その後、開国し、外国人が多く日本に住むようになると牛乳の必要性が高まっていきました。

明治時代になり、「明治天皇は毎日2回ずつ牛乳を飲む」という記事が新聞・雑誌に載ると、国民の間にも牛乳飲用が広まるようになりました。

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遺伝子レベルで人間と相性が良い牛乳

2000年に出版されたサイエンティフィック・アメリカの出版物によると、牛とヒトの遺伝子情報を比較し、牛の768の遺伝子のうち、687の遺伝子(89.5%)が、ヒトと相同分子種を持っていることがわかりました。

また遺伝子学的に、牛乳は存在する他のどの種よりも人間の母乳と最も相性が良いと言われています。これは、牛のDNAがヒトDNAと調和するように特別に構築されているためです。牛のDNAは、人間が、牛乳、チーズ、バター、クリーム、ヨーグルトなどの乳製品から恩恵を受けることができるように設計されています。

 

 

 

 

 

牛と世界平和の密接な関係

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動物の保護

牛と世界平和には深い関係があります。私のヨーガの師匠は「牛の虐殺を禁止しない政府は滅びる。自分自身でその歴史を調べてみなさい。まずすべての動物への暴力を止めることだ」と述べています。また「今、起こっていること(新型コロナウィルス感染症の世界的流行)は、牛の呪いの結果だ」とも述べています。牛だけではなくすべての動物への非暴力が大切ですが、牛は非常に世界に恩恵を与える動物で大切にするべき存在です。

各政府や自治体の動物保護

調べてみると、憲法で動物保護を定めているのはスイスであるようです。法律に貫かれている基本理念は、農家や肉屋、飼い主、科学者を含め誰であっても「動物を不適切に痛みや苦痛、危害、恐怖にさらす」ことは許されないことです。憲法レベルで動物の尊厳を定めているのは世界でもスイスだけであるそうです。

動物を「感受性のある存在」と捉え、家畜にとってストレスや苦痛の少ない飼育環境を目指す考え方である「アニマルウェルフェア」の先進国はイギリスです。2006年アニマルウェルフェア法では、家畜など人間の飼養下にある動物に限らず、野生動物を含めた全ての脊椎動物(人間を除く)を対象に、致傷行為などの各種禁止事項を定めています。家畜だけではなく、野生動物を含めているところがこの法律の進んでいるところです。

また牛を聖なる存在として敬うヒンドゥー教徒の多いインドでは、マハーラーシュトラ州政府の修正動物保護法が同州内におけるすべての牛の食肉解体を禁止しています。またインド各地で食肉自体を規制する制度がひろがっているようです。

菜食主義のひろがり

欧米では菜食主義がひろがりを見せています。ドイツでは総人口の9%、イタリアでは6%がベジタリアンであるそうです。アメリカはここ数年で、ヴィーガンベジタリアンが爆発的に増え、2017年には6%と言われていたベジタリアン率が、2019年には7〜8%まで増えたと推測されています。アメリカでは2000万人以上の人々が菜食主義であることになります。特に若い世代で増えているようです。

動物の権利

菜食主義が広がる理由はさまざまですが、その一つに「動物の権利」という考え方があります。動物には人間から搾取されたり残虐な扱いを受けることなく、それぞれの動物の本性に従って生きる権利があるとする考え方です。 現代では、奴隷制や女性蔑視の差別を容認できる人はいませんが、未来の世界では動物への差別が種差別と捉えられ、食肉がとんでもなく野蛮な行為だとみなされるようになるのかもしれません。

食料問題と肉食

菜食主義の根拠の一つには食料と環境の問題もあります。食肉のために必要な穀物飼料を計算すると、農林水産省のレポートによると牛肉1kgのために穀物飼料が11kgが必要だとされています。もっと多く必要だという試算もありますが、いずれにせよ、肉として動物を食べることは食料生産の面から見て非常に非効率的です。食料問題は、食料の分配や権利に関する民主主義的な問題でもあるため、量だけで考えることはできませんが、肉食か菜食かの選択が、環境にかける負荷に大きく関わっていることに間違いはありません。

環境問題と肉食

グリーンピース・ジャパンは、肉の大量消費がもたらす10の環境問題をまとめています。工業型の畜産は「地球温暖化」「水質汚染」「森林伐採」「地球の陸地の1/4を土地利用」「穀物の大量使用」「大気汚染」「土壌劣化」「水の過剰使用」「人獣共通感染症」「生物多様性の喪失」などの環境問題を引き起こしているとまとめています。

そして「人獣共通感染症」の項目では、「アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、新しく発生する感染症の3/4は動物からであるとしています」と伝えています。

o-157」は、牛を食肉のために不自然な不衛生な環境で育て、病気がちな牛に本来は牛の食料ではない穀物抗生物質ホルモン剤を混ぜて食べさせてていたために耐性菌として生じたという説があります。鳥インフルエンザ豚インフルエンザなどの脅威もあります。グリンピース・ジャパンは「パンデミックの根本解決のためにには動物搾取や環境破壊のあり方を考える必要があります」と述べています。新型コロナウィルス感染症の発生源は、はっきりしませんが、コウモリを媒介とした可能性が伝えられています。コウモリを食用とするのは、工業型畜産の問題ではありませんが、不必要な肉食が引き起こす問題の一つである可能性があります。

食の選択と動物の保護

まず私たちにできることは、一食一食の「食の選択」であることは間違いないと思います。不必要に動物に苦痛を与えることを避け、また地球の環境に脅威をもたらさないような食事を選択することができます。そして、動物を保護し、人間と共生する仲間として暮らすための制度を応援していくことだと思います。世界の未来は、私たちの一食と密接な関係を持っているようです。

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